特定調停について
特定債務者等の調整の促進のための特定調停に関する法律(以下「特定調停法」という)は、平成11年12月13日に成立し、平成12年2月17日施行された。
特定調停法は、支払不能に陥るおそれのある債務者等(以下「特定債務者」という)の経済的再生に資するため、特定債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする(特定調停法1条)。
特定債務者とは、金銭債務を負っている者であって、
①支払不能に陥るおそれのあるもの、
②事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの、
③債務超過に陥るおそれのある法人をいう(特定調停法2条1項)。
従前は、民事調停手続のうち、多数の債権者に対して金銭債務の免除や返済の猶予を求める「債務弁済協定調停」という形態が存在したが、いわゆるバブル経済崩壊後の不況下における破産事件をはじめとする債務整理事件の激増という社会状況の下、債務弁済協定調停事件の実務で実際に行われていた運用を特定調停法として法文化したものである。
特定調停法は、「民事調停法の特例として」(特定調停法1条)定められたものであり、特定調停法22条も「特定調停については、この法律に定めるもののほか、民事調停法の定めるところによる。」と規定している。
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特定調停手続の概要
特定調停の手続はおおよそ以下のとおりである。
なお、各簡易裁判所において取り扱いが異なる場合がある。
(1)申立て
特定調停手続により調停を行うことを求める旨申述して申し立てる。
中立権者は特定債務者のみである。
破産や民事再生とは異なり、債権者が申し立てることはできない。
債権者全員を相手方とするのが通常であるが、法律上は一部の債権者を相手方として申し立てることもできる。
申立てに必要な書類は以下のとおりである。いずれも簡易裁判所に備え付けられている。
① 中立書
② 調査票(申立人が特定債務者であることを示す資料)
③ 相手方一覧表
(2)第1回期日
第1回期日においては、特定債務者のみが出席し、特定債務者から負債状況、返済の見込み等について聴取がなされる。
第1回期日の後に、調停委員会は債権者に対して取引関係書類の提出を求める(文書提出命令、特定調停法12条)。
(3)第2回期日以降
第2回期日以降においては、債権者が提出した取引履歴に基づき引き直し計算を行い、弁済計画を立て、調停条項を作成する。
(4)調停成立
特定調停も調停であるから、当事者間の任意の合意により調停が成立する。
一方当事者が遠隔地等の理由で期日に出頭困難な場合は、書面による受諾により調停が成立する(特定調停法16条)。
当事者双方から、書面で、調停条項に服する旨の申出があった場合は、調停委員会の定めた調停条項につき当事者間に合意が成立したものと見なされる(特定調停法17条)。
特定調停手続の特徴
(1)管轄要件の緩和
民事調停においては、原則として相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所に土地管轄が認められ(民調3条)、土地管轄を有しない裁判所への移送・自庁処理は「事件を処理するために特に必要があると認めるとき」に認められる(民調4条)。
特定調停法4条は、土地管轄を有しない裁判所への移送・自庁処理の要件を「事件を処理するために適当であると認めるとき」に緩和している。
これにより、複数の債権者との調停を同一の裁判所で一括処理することが容易になる。
(2)民事執行手続の停止
民事調停においては、民事執行手続の停止が認められる要件として「調停の成立を不能にし又は著しく困難にするおそれがあるとき」であることが要求され、また常に担保を立てることが必要とされている(民調規6条)。
そして、停止を求めうる民事執行手続から「裁判及び調書その他裁判所において作成する書面の記載に基づく民事執行の手続」を除外しており、公正証書や担保権に基づく民事執行手続のみが停止の対象とされている。
特定調停法7条は民事執行手続の停止の要件を緩和し、「特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるとき」にも停止を求めることができることとし、また必ず担保を立てることを要するとせず、無担保でも民事執行手続の停止を求めることができることとした。
さらに、「裁判及び調書その他裁判所において作成する書面の記載に基づく民事執行の手続」を含めた民事執行手続全般につき停止を求めることができることとした。
(3)当事者の責務
民事調停において、事案の内容を明らかにし、資料を提出することはもとより当事者の責務であるが、特定調停においては特に債権者の側から取引経過を明らかにすることが必要不可欠である。
そこで特定調停法10条は、「当事者は、調停委員会に対し、債権又は債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及び担保関係の変更等に関する事実を明らかにしなければならない。」と規定し、これを受けて特定調停手続規則4条は、
「関係権利者である当事者及び参加入は、相当な期間(裁判所書記官が期間を定めて提出を催告したときは、その斯間)内に、次に掲げる事項を記載した書面及びその証拠書類を提出しなければならない。
一申立人に対する債権又は担保権の発生原因及び内容
二前号の債権についての弁済、放棄等による内容の変更及び同号の担保権についての担保関係の変更
2 前項第2号に規定する弁済による債権の内容の変更を記載するときは、その算出の根拠及び過程を明らかにしなければならない。」
と規定している。
(4)文書等の提出
特定調停においては債権者の側から取引経過を明らかにすることが必要不可欠であるから、特定調停法12条は、「調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるときは、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる。」と規定し、さらに特定調停法24条1項は、「当事者又は参加人が正当な理由なく第12条(第19条において準用する場合を含む。)の規定による文書又は物件の提出の要求に応じないときは、裁判所は、10万円以下の過料に処する。」と規定し、調停委員会が債権者に対して文書提出命令を出すこと及び文書提出命令に違反した場合に過料の処分が課されることとしている。
(5)調停前の措置
民事調停法12条1項は、「調停委員会は、調停のために特に必要があると認めるときは、当事者の申立により、調停前の措置として、相手方その他の事件の関係人に対して、現状の変更又は物の処分の禁止その他調停の内容たる事項の実現を不能にし又は著しく困難ならしめる行為の排除を命ずることができる。」と規定している。
この調停前の事前措置は、従前から民事調停法に規定があり、特定調停法の成立を期に新たに設けられたものではない。
しかしながら、手形の取立禁止の事前措置は、債務者が手形を振り出している場合の債務整理において有用な手段であり、商工ローン業者を相手方とする特定調停において利用する機会の多い制度である。
手形取立禁止の措置命令には執行力がなく(民調12条2項)、禁止命令に反した行為の私法上の効力は否定されないが、民事調停法35条により正当な理由のない命令違反に対しては10万円以下の過料が課されるので、実際上調停前の措置命令に反した取立てがなされることはほとんどない。
(6)受諾和解
特定調停法16条は、「特定調停に係る事件の当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾したときは、特定調停において当事者間に合意が成立したものとみなす。」と規定し、一定の要件の下で一方当事者が期日に欠席しても調停の成立を可能としている。
これは、民事訴訟手続(民訴264条)や遺産分割の家事調停(家事審判法21条の2)で認められているのと同様の手続である。
特定調停においては、前述のとおり自庁一括処理を可能にするため管轄・移送などの要件が緩やかになっており、特に相手方において裁判所への出頭が困難な場合があり得る。
そのため、そうした期日への出頭が困難な当事者の便宜を図る必要がある。
またそれにより調停の成立が容易になる。